日本サポーターはワールドカップ優勝を祝福できるか?

2006/07/11 Tue 04:18

 2006年ワールドカップ決勝は、延長戦を終えても1対1のまま決着つかず、PK戦にもつれこんだ結果、5-4でイタリアが勝利した。だがトロフィーを高く掲げるカンナバーロよりも、PKを外したトレゼゲよりも、延長後半5分、ジダンがマテラッツィに対して見舞った頭突きが最も印象に残っている。

 サッカー好きの友人は今回の頭突きについて、「マテラッツィはジダン対策として、あの場面に至るまでずっと野次りつづけていたのではないか」という観測を持っているらしい。重要なのは、その野次が「ジダン対策」であったかもしれないという点である。多かれ少なかれマテラッツィが野次っていたのは事実であるとして、それは「ジダン対策」だったのか。

インタビュー等などで見られる、はにかみやで静かな話し方から、謙虚で控えめな性格と評される反面、試合においては警告を受ける回数は少なくない。 有名なところでは、1998年フランスW杯で南アフリカの選手を両足で踏みつけ(2試合出場停止)、ユベントス時代の2000年チャンピオンズリーグではハンブルガーSVの選手へ頭突き(5試合出場停止)、レアル・マドリード時代の2004年リーガ・エスパニョーラではムルシアの選手に対して頭突き、また、2005年のリーガではビジャレアルの選手に対して突然平手打ちをするなど、瞬間的に頭に血が上りやすいことでも知られている。

ジネディーヌ・ジダン - Wikipedia (ja)

 ジダンが「瞬間的に頭に血が上りやすいこと」は、ヨーロッパのサッカー選手であれば当然知っているべき情報である。「ジダン対策」として「野次」が有効であると考える根拠には充分だろう。

闘争心旺盛な性格が災いし、ハードマークなどでファールを献上、カードを貰うことがしばしば。また熱くなりすぎでラフプレーも侵すことがある。この最たる例として、2004年2月1日のシエナ戦において試合に欠場したマテラッツィはシエナのDF、ブルーノ・チリッロに対し汚い野次を飛ばし続け、これに苛立ったチリッロが試合終了後にマテラッツィに詰め寄ったところ、マテラッツィはチリッロを暴行。チリッロが生中継に顔面あざだらけで現れこの事態を告白。マテラッツィは罰金と2ヶ月の出場停止を受けた。

マルコ・マテラッツィ - Wikipedia (ja)

 口汚い野次はマテラッツィの得意技であった。「ジダン対策」としてはまさに適任である。このマテラッツィの特徴も、ヨーロッパのプレーヤーであれば――マッチアップする機会があるならなおさら――知っているべき情報なのだろう。が、いずれにせよジダンはそれに耐えることができなかった。彼の行動は非難されて然るべきだが、ひとまずここで考えたいのはマテラッツィについてである。

 マテラッツィはジダンの性質を知っていた。そして実際に野次を飛ばしていた。その狙いは功を奏し、結局ジダンは自ら退場を準備することになった。マテラッツィが退場まで期待していたかどうかはわからないが、不意の一撃という代償を差し引いても十分すぎる「成果」を挙げた。勝負の結果を見れば、彼の行動がイタリアの勝利に貢献したと見ることはできるだろう。決定的なものではない、しかし大きな要因のひとつではあった。少なくとも試合後の現在はそう思える。

 以下は、ルモンドが伝えたフランス代表ドメネク監督の試合後のコメントである。

Materazzi a fait beaucoup de cinéma quand il est tombé de si haut. Il est grand, il est costaud, et un coup de vent l'a fait tomber. L'homme du match, ce n'est pas Pirlo, c'est Materazzi, il marque et il fait exclure Zidane...

あれだけ大げさに倒れて、マテラッツィは大芝居を打った。彼は背が高く、頑丈だが、ある突風が彼を倒したんだ。マン・オブ・ザ・マッチ、それはピルロではなく、マテラッツィだ。彼はジダンをマークし、そして排除したんだよ……。

Le Monde.fr : Raymond Domenech : "L'homme du match, c'est Materazzi"

 マテラッツィの野次は、チームの勝利に貢献した。あれはひとつの「チームプレー」となった。イタリアベンチの思惑がそこに介在していたかどうかはわからない(これも問う価値のある問題かもしれないが、ひとまず措く)。だが個人の判断であったとしても、それは結果的に「チームプレー」となった。ここでの「チームプレー」とは、協力して複数の人間が行動することではなく、チーム全体に貢献する部分的な行動というくらいの意味である。

 どちらも鉄壁の守備を堅め、同点のままPK戦までもつれこんだ試合の勝敗を分けた分水嶺は、マテラッツィの野次によってもたらされた。あれだけの勝負に勝つためには、そこまでしなければならなかったということである――少なくともあの試合に関しては。サッカー、いやフットボール/カルチョとは、おそらくそういう部分を含むスポーツなのであり、それを「悪い」と言ってもそうであることをやめないものなのだと思う。

 W杯前、ある日本メディアがブラジル代表のカカに行ったインタビューをテレビで見た。そこでは日本代表の印象についての質問もされていて、カカは「日本代表に足りないものは、ズルさだと思う。ラフプレーという意味ではなくてね」という内容の返答をしていた。カカがその「ズルさ」にマテラッツィのような「野次」を含めていたかどうかはわからない。しかし今では、この発言が今回の件に強く結びつくように思えてならない。

 日本代表がW杯を征するために必要なもの、それは中田英寿が伝えたかったものでも、イビチャ・オシムが伝えようとするものでもないかもしれない。そして、日本代表が「それ」を手に入れ、W杯を手にしたとき、日本サポーターはその勝利を祝福できるだろうか?

 ……以下余録。

 やはり頭突きの原因は全世界的な関心事らしい。とりあえずスポニチ。

 イタリアのマテラッツィが暴言を吐き、ジダンは怒りを抑えられなかったとの見方が支配的だ。その暴言の中身について、フランスのニュース専門テレビLCIの記者は「人種差別的な内容、あるいは家族に関する内容だったのではないか」との推測を紹介。ジダンはアルジェリア系移民の家庭に生まれた事実が念頭にある。

 フランス公共ラジオによると、ブラジルのテレビ局は読唇術の専門家の分析として、マテラッツィがジダンの姉を侮辱する発言を2回繰り返したとの見方を伝えた。侮辱されたのは母親との憶測もある。

スポニチ Sponichi Annex 速報: ジダン頭突きの原因めぐり報道合戦

 で、あまり徹底して探したわけではないが、フランスNouvelle Opsはジダンの従兄弟のコメントを伝えた。推測の域は出ないが、やはり彼の出自に関わる内容ではないかと述べている。

AGUEMOUNE, Algérie (AP) -- L'un des cousins de Zinédine Zidane a rapporté lundi que le coup de sang de Zizou contre Marco Materazzi dimanche soir en finale de la Coupe du monde serait né de l'insulte de "terroriste" qui aurait été proférée par le défenseur italien.

Rabah Zidane, interrogé dans le hameau familial d'Aguemoune en Kabylie d'où est originaire la famille Zidane, a jugé que "Zizou, dans ses habitudes, il ne frappe pas. Il est gentil. Il ne frappe pas. Mais sûrement, (Matterazi) a dit quelque chose grave". il a ajouté avoir entendu que son cousin avait été traité de "terroriste". "Si c'est comme ça", il a eu raison de réagir.

Après un échange verbal avec le défenseur de l'Inter de Milan, Zidane lui a donné un fort coup de tête dans le thorax, se faisant expulser par l'arbitre à la 110e minute de jeu.

"On est déçu, on est triste", a confié Rabah Zidane. "Malheureusement, ça s'est mal terminé. C'est ça, le football: il y a un gagnant, il y a un perdant". Toutefois, le fait que Zinédine Zidane ait été élu le meilleur joueur de la Coupe du monde "nous fait plaisir", a-t-il ajouté. AP

アグムーヌ、アルジェリア(AP)――月曜、ジネディーヌ・ジダンの従兄弟の一人は、日曜夜のワールドカップ決勝において、ジズーがマテラッツィに対して憤激したのは、イタリア人ディフェンダーが発言した「テロリスト」という侮辱によって生じたことではないかと述べた。

ラバ・ジダンはカビリ地方のアグムーヌにある一族の集落で取材を受けた。ジダンの一族はこの地に由来する。ラバは「ジズーには殴ったりする習慣はない。親切だよ。殴ったりしない。だが確かに(マテラッツィは)何か深刻なことを言ったんだ」と判断した。

インテルのディフェンダーと言い合ったあと、ジダンは彼の胸部に強い頭突きを加え、110分、自ら退場を宣告されにいった。

ラバは「みんな裏切られたし、みんな悲しんでいる」と打ち明けた。「不幸なことに、悪いかたちで終わってしまった。これがフットボールなんだよ。そこには勝者がいて、敗者がいる」。しかしながら、ジダンがワールドカップ最優秀選手に選ばれたことは「我々を喜ばせた」とも付け加えた。AP

Le Quotidien Permanent du Nouvel Observateur- Mondial: Zidane aurait été traité de "terroriste" par Materazzi, selon un de ses cousins

 この問題を掘ってゆくと、いずれにしてもその生い立ちや経歴、背景に立ち入らざるを得なくなってゆく。これはジダンに限らず、マテラッツィについても同様である。ラバ・ジダンとは別の意味で「これがフットボールなんだよ」と思ってしまう。こうしたことは化の二人だけにあてはまるのではなく、すべてのプレーヤーの裏側にあることなのだろう。

 僕はそれらの諸々についてまったく無知なミーハーにすぎないが、今回はいい勉強になった。

関連:アンカテ(Uncategorizable Blog) - 日本サポーターはごっつぁんゴールを祝福できるか?

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